猫をおいて旅立つ
ペットを託しておく
知人が他界したと連絡を受けたのは、知人への手紙をポストに投函した直ぐ後だった。
明後日誕生日を迎える知人に、時候の挨拶を兼ねて、バカ話でもしようぜと綴った手紙は、葬儀の日に届けられる。とんだ弔文となってしまった。
昼間から偲び酒を呑みながら、これを書いている。
闘病生活
子宮癌を皮切りに、胃癌で胃も全摘し、咽頭癌まで転移した知人。
この数年は抑うつから気も患い、この2年程は双極性障害に知人本人と家族が振り回されていた。
知人を観るに、40代までずっと躁状態で、癌を契機に双極性障害が露わになったという気がする。
特にここ一年は、ラピッドサイクラーと言うには余りに頻繁な躁鬱急速交代を示し、1日のうちで2回程軽躁になったり、鬱になったりしていた。
知人の子供が「どれが本音か分からない」と嘆息していたが、どれも本音だ。子供達は、双極性障害を理解出来ずに振り回され、疲れていた。
躁の時の積極性とのめり込み・猛進も、鬱でじめじめ泣き続ける姿も、どれもそのまま知人の真の姿だ。知人の子供の話を聞きながら、そういう疾病だという理解は、脳に瑕疵の無い人間には、なかなか難しいものだと改めて思う。
「物をやる」という躁状態
知人の軽躁は、買物をするでなく、自宅の物を人にやることだった。
名家を継ぎ、所謂「お宝」が山程ある。
それを次々に人にタダでやるのだ。
自分も、時代劇の殿様が飯を食う時使う様な、優雅な脚付きの塗の御膳を2つ、軸やら何やらを貰った。
自分から欲しがったのでなく、知人宅に行ったら知人が風呂敷に既に包んでおり、口角泡飛ばず勢いで押しつけられたという方が近い。
家に帰って見てみれば、どうやって使えばいいんだこれ?と立派過ぎて、でも頂き物だしと悩んでいると、知人の子供から「返してくれ」と連絡があり返した事がある。
子供にすれば、然る所に出せば金にもなるものを相談なしに誰彼と譲られて、取り返すのも大変だった事だろう。
衝動買いは、躁の症状としてよく聞くが、成る程人に価値あるものをタダでやるという表れ方もあるのだと思った。
双極性障害同志
お互い双極性障害という事で、知人と自分はウマが合った。
別に疾病繋がりで知り合った訳ではないのだが、自分にとっては知人は大事な人で、自分の疾病のあれこれを、正直に話せる相手だった。
知人も、癌も含め病気の辛さを、自分には赤ら様に打ち明けていてくれた。
自分が大鬱に突入する直前の8月末に、知人は何度目かの入院をした。
そのまま、会わずに、今日の別れを迎える事になった。
大学病院では、癌だけでなく、精神疾患の面でもカウンセラーや知識ある看護師に介護して貰っていたと聞く。
癌のせいで、ラピッドサイクラーが加速したのかは知らないが、自死ではなく多臓器不全で逝けて、少しは安らげたのだろうかと願う。
残された猫
知人は猫を飼っていた。
知人の口癖は「この子をおいては先に死ねない。この子が死んだら自分も死ぬ」だった。7年前にひょっこり知人宅に姿を見せた猫は、知人にまとわりつき、家に入れてくれと鳴き、住猫となった。
屋根に登って、降りれないと知人に救出され、万年床を共にし、知人の入院中は訳知り顔で大人しく留守番していた。
「これぞ三毛!」と一目見て感動した程、三毛猫具合が素晴らしい。
人懐こいが、好きな人間ははっきりしており、自分などは「お付き合いで抱かせている」という感じだった。
残された三毛猫は、そう懐いていない子供が引き取るのだろうか?
あとを託す
自分も、今居る3猫が虹の橋に行くまでは、自分が世話をするのだと思っているが、病気や事故で不意に逝ってしまう事もあり得る。
そんな事実に、知人の死をもって気づかされた。
自分が最後まで世話するつもりだが、もしも予定外に逝ってしまったら、猫達を宜しくと、子供に言っておくべきかもしれない。
誰にも何も託さず逝ってしまったら、心残りがあり過ぎる。それこそ成仏している場合でない。
本日の落ち処
知人の安らかな眠りと、飼っていた三毛猫の今後の生活の安定を願う。
きっと猫の事は気がかりだろう。焼香序でに様子を見てやって、知人に報告するとするか。
最後まで世話するつもりでも、不慮の事態は起こり得る。
災害だって多い世の中だ。
一応子供に一度は話す事にしよう。
可愛がっているペットを置いて、逝かざるを得ないこともある。
ペットを飼うのは、生半ではない。
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めちゃくちゃ目が痒い。
ぼちぼち咲き出した桜をぼんやり見たせいか、知人が逝ったせいか……
加味逍遥散料は朝晩2服、白虎加人参湯は毎食前3服、アレロック1錠。
夕食時にドグマチール50mg。
(薬の自己調整許可あり)
2019(平成31)年3月21日(木)